東京高等裁判所 昭和52年(ラ)1003号 決定 1978年4月07日
申立人 永田幸治
相手方 山本サチ子 外一名
主文
本件抗告を棄却する。
抗告費用は、抗告人の負担とする。
理由
抗告人は、「原審判を取消す。」との決定を求めたが、その理由とするところは別紙記載のとおりである。なお、原審判における相手方永田あや子(抗告人及び相手方らの母)は、昭和五三年二月一日死亡した。
当裁判所は、被相続人永田源治の遺産分割に関する原審判は相当であり、次に説示するように抗告人の抗告は理由がないものと判断するので、ここに原審判の理由を引用する(原審判では、永田あや子の遺産取得分は零となつているから、同人の死亡は原審判における抗告人らの取得分に影響を及ぼさない。)。
抗告人は、原審判添付別紙第一の土地は被相続人永田源治の遺産ではなく、抗告人が働いて得た金で取得した抗告人所有の土地であると主張する。しかしながら右土地の登記簿騰本によれば右土地は昭和二一年二月七日売買によつて永田源治がこれを取得した旨の登記がされており、抗告人は終戦後復員してきた者であるから、仮にその復員が終戦直後であつたとしても右期日に右土地を単独で取得できるほどの収入があつたものとは考えられず、他に抗告人主張の事実を認めるに足るような資料はない。
抗告人は、また被相続人死亡までの間に、抗告人は相手方山本サチ子に対し、その医療費等として合計金三一七万円に上る金を支払つてやつているが、原審判がこの事実を無視しているのは不当であると主張する。抗告人提出の乙第一二七号証ないし第一六〇号証によれば、山本サチ子の医療費等として合計金二八万五、一六一円が支払われていることを認めることができるが、果してこれが抗告人の負担で支払われたものかどうか判然とせず(原審において、山本サチ子は同人の医療費は父が払つてくれたとも、また○○病院入院中の費用はサチ子所有の家屋の家賃で支払つていると抗告人から聞いていた旨を供述している。)、また、右金額を超えて抗告人が相手方サチ子のために金三一七万円の医療費等を支払つたことを認めるに足る資料はなく、このことを前提とする抗告人の主張は理由がない。
抗告人は、更に被相続人死亡後も抗告人は相手方サチ子のために医療費を支払い、且つアパートを借りる際に権利金、敷金を払つてやり、また現在もその賃借料を支払つてやつているが、原審判はこの事実を無視しており公正を欠くと主張するが、被相続人死亡後の相手方サチ子に対する右のような支出は、仮にそれが認められるとしても、その支出は兄妹間の扶養としてされたものであると認められ、相続財産の分割に右事実を考慮しなかつたからといつて審判が不当であるということはできない。更にまた、抗告人は、被相続人死亡後も抗告人単独で抗告人らの母を扶養してきたのに、この事実を顧慮しない原審判は不公正であるというが、被相続人死亡後の扶養の事実を考慮しなかつたからといつて、そのために審判が不当であるということはできない。
更に原審判が相手方らに対する分割払の方法をとらなかつたから不当であるというが、家事審判規則一一〇条の規定により準用する同規則四九条の規定に基づき遺産の分割の審判において金銭の支払いを命ずる場合にあたり、その支払方法をどのようにすべきかは裁判所の自由な裁量によつて定むべきもので、元来その支払いは一時になさるべき関係にある債務であるから給付を命ぜられた者が単に現在一時に支払いができないという理由のみで分割支払いないしは支払いの猶予を容認すべきではなく、審判により遺産を承継した者の遺産に対する相続開始後の使用収益の態様、その現存利益及びその収益性その他一切の事情を考慮して、分割支払いを命じなければならないような特段の事情がない以上、これを容認すべきものではないと解すべきところ、抗告人は本件宅地をその単独所有とすることを主張し、すでに同土地から生ずる収益をえており、将来も収益可能なものであるから、相手方らに対する債務負担についてのみその支払いを分割にしたり、あるいは猶予したりしなければならない理由もなく、そのほか抗告人主張の事情を斟酌してもなお抗告人の負担する債務につき分割支払いを命じなければならない事情もみあたらないので、原審判が分割支払いないしは支払いの猶予を与えなかつたからといつて、それが不当であるということはできない。
以上のとおりであつて、原審判は相当であり、抗告人の抗告は理由がないからこれを棄却し、抗告費用は抗告人に負担させることとして主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 館忠彦 裁判官 宮崎啓一 高林克己)
抗告理由書<省略>